前回の記事で、人間の生体内で起こる代謝の仕組みについてまとめてみましたが、その代謝を維持するために様々なバックアップシステムがこの体には備わっているんですね。
どういったシステムなのか?今回の記事で掘り下げてみたいと思う。
(というか本の内容のまとめなんですけどね。)
前回の記事↓
補助燃料タンク(グリコーゲン)
グルコースが余ると、余ったものでグリコーゲンが合成されます。
グリコーゲンはグルコースの分子が枝分かれしながら鎖状に重合した物質で、分解して1つ1つ切り離せばグルコースとしてエネルギー代謝に利用できるようになっています。
絶食中はグリコーゲンの結合を切断するグリコーゲンホスホリラーゼと1-6グルコシド結合という分岐を切る脱分岐酵素が働いてグルコース1リン酸に分解され、さらにグルコース6リン酸になって解糖系の経路の途中に戻ります。(再び解糖系に入り、最終的にピルビン酸となって、ミトコンドリアに入り、ATPを産生してエネルギー代謝に利用)
筋肉に貯蔵されたグリコーゲンは、筋肉自らが収縮するためのATPを産生することで消費される。
肝臓のグリコーゲンは、グルコース6リン酸からリン酸基を外してグルコースとして血液中へ放出し、全身の血糖維持に用いられる。
補助燃料タンク(中性脂肪の分解)
グリコーゲンが枯渇すると、中性脂肪の分解が始まり、一方はグリセロールになり、他方は脂肪酸になります。
グリセロールはジヒドロキシアセトンリン酸に変換されて、そのまま解糖系を逆行してグルコースに至る。
遊離脂肪酸はエネルギー代謝経路に入るためにCoAがカルボキシル基に結合して活性化され、アシルCoAになる。アシルCoAはβ酸化(基質から酸素を使わずに水素原子を奪う酸化反応で、この時奪われた水素原子は電子伝達系に回る。)でマトリックス内でアセチルCoAを生じ、TCA回路へ向かう。
グリセロールは糖新生でグルコースとなり、脂肪酸はアシルCoAになり、さらにβ酸化でアセチルCoAになって、ミトコンドリアマトリックス内でTCA回路に乗ることになります。
このようにして、蓄えられていたグリセロールや中性脂肪は、生体内の代謝に有効的に利用されるということですね。
中性脂肪は蓄えることによって飢餓に備える能力が飛躍的に増加するわけです。
飢餓時のエネルギー代謝
TCA回路はミトコンドリアマックスにオキザロ酢酸とアセチルCoAが1:1の等量存在しているときに最も効率よく回転する。
TCA回路はオキザロ酢酸に脂肪酸のβ酸化で生じたアセチルCoAが結合してクエン酸になるところから始まりますからね。↓↓
しかし飢餓状態になると、肝臓に集中している脂肪酸のβ酸化によりTCA回路で消費しきれない大量のアセチルCoAが生じて、TCAは空焚きのような状態になってしまいます。
そこでアセチルCoAはアセト酢酸、3ヒドロキシ酢酸、アセトンという3種類のケトン体に変換されます。
アセトンは呼気中に排泄され、アセト酢酸、3ヒドロキシ酢酸は肝細胞から血液中へ。
肝臓以外の臓器で捕捉され、再びアセチルCoAに変換され、TCA回路に利用されます。
糖尿病の本質
インスリンは血糖を下げるホルモンではなく、グルコースの利用と貯蔵を促進するホルモンです。
インスリンが分泌すると、グルコーストランスポーター(GLUT)というタンパク質を細胞膜表面に押し上げ、血液中のグルコースを細胞内へ取り込むように作用するんですね。
(細胞膜やミトコンドリアなどの細胞内小器官の膜は水溶性の物質も脂溶性の物質もそこを通過できないので、トランスポーターで分子の形を変えながらグルコースなど高分子の物質を通過させる)
細胞内で解糖系の反応が始まり、余ったグルコースをグリコーゲン、さらに余ったアセチルCoAを中性脂肪として蓄えていくんですね。
(上の写真 図5-5 Ⓑも参照)
糖尿病とは細胞内飢餓である。
糖尿病は血液中にあり余るグルコースがありながら、細胞内に入ってこない細胞内飢餓という状態のことです。
肝細胞内では脂肪酸のβ酸化が進み、大量のケトン体が産生されて血液中に放出されて、全身が酸性に傾きます。(ケトアシドーシスと呼ばれる状態。これが糖尿病の本質)
失明とか腎不全とか動脈硬化による足の壊疽等は血液中にだぶついたグルコースによって浸透圧が上昇し、血管がダメージを受けたための副次的な合併症になります。
補助燃料タンク(中性脂肪とコレステロールの合成)
脂肪酸の合成はミトコンドリアの外側の細胞質ゾルで行われます。
アセチルCoAを継ぎ足して脂肪酸を合成し、解糖系の中間産物であるジヒドロキシアセトンリン酸から合成したグリセロールにエステル結合させて、中性脂肪の形にする。
アセチルCoAは中性脂肪のほかに、コレステロールの原料にもなります。(半分は食物中から摂取される)
コレステロールは男性ホルモン、女性ホルモンなどのステロイドホルモンの原料となるステロイドを合成します。(生体の膜の構成成分の1つ)
中性脂肪分解はミトコンドリアの内、合成は外で行われるわけですね。
クエン酸もシャトルに乗って
脂肪酸の原料は過剰なアセチルCoAで、これが継ぎ足されて長鎖のアシルCoAになります。
でもアセチルCoAはミトコンドリアの膜を通過できず、細胞質ゾルに出せません。
そこでTCA回路でアセチルCoAを1つ先のクエン酸に変換すれば通過できます。
細胞質ゾルにクエン酸が出ると再びアセチルCoAとオキザロ酢酸に分解されます。
これをクエン酸シャトルといいます。
<6-1>
アミノ基転移反応とアンモニアの処理
アミノ酸はタンパク質から分解されてできたものと、食物から直接摂取して得たものとあり、これが生体の生命維持に必要な様々なタンパク質を合成しています。
しかし、余分にできたアミノ酸や、不要になったアミノ酸は代謝され、排出しなければなりません。
窒素化合物であるアミノ酸からアミノ基を外すと、炭水化物になってエネルギー代謝に利用できます。
食事として体内に吸収された炭水化物は分解してグルコースになりますが、肉食動物は植物を食べず、直接炭水化物を得られないので、糖新生で解糖系を逆行して、グルコースにするんでしたね。
これらはTCA回路でリンゴ酸に変換でき、解糖系を逆行してグルコースになります。
しかし、アミノ酸からは危険なアンモニアも遊離してしまいます。
そこで危険なアンモニアが遊離しないように、別の化合物にアミノ基を転移させるのです。これをアミノ基転移反応と言います。
例えば、「アラニン → ピルビン酸(αケト酸)」の場合はアラニントランスアミナーゼ(ALT)という酵素がアラニンのアミノ基をαケトグルタル酸に転移させる
「アスパラギン酸 → オキザロ酢酸(αケト酸)」の場合はアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)がアスパラギン酸のアミノ基をαケトグルタル酸に転移させる。
ここでアミノ基(‐NH2)を転移されたαケトグルタル酸はグルタミン酸になり、一方では炭水化物はできるけれども、グルタミン酸ばかり溜まってしまうのではないかと思われることでしょう。
しかし、グルタミン酸には酸化的脱アミノといって、グルタミン酸テヒドロゲナーゼ(GLDH)という酵素が、NADまたはNADPを受容体としてグルタミン酸から水素を奪い、アンモニアを遊離させることによって、αケトグルタル酸に変換する働きがあります。
(アミノ基転移反応により生じたグルタミン酸は、肝臓あるい腎臓へと輸送される必要があります。なぜかというと遊離したアンモニア分子を肝臓の尿素回路で尿素に変えて、無毒化し、腎臓ではアンモニウムイオンの形で尿中に排泄するためです。また肝細胞および腎細胞に存在するミトコンドリア内にグルタミン酸テヒドロゲナーゼは存在します。)
アミノ酸はアミノ基をパス回しのようにαケトグルタル酸に受け渡しグルタミン酸に変えた末、最終的にグルタミン酸がアンモニアを遊離させてゴールシュートを決めるわけです。
<8-2>
遊離したアンモニアは、肝臓で尿素となり、無害化される。(尿素回路でアンモニアを無害化)
遊離したアンモニアは肝細胞で行われている尿素回路で無害な尿素に変換されて解毒されます。
①遊離アンモニアと二酸化炭素からATPを使い、カルバモイルリン酸を合成
②カルバモイルリン酸はミトコンドリアに入ってきたオルニチンと結合しシトルリンになり、ミトコンドリアから出ていく。
③アスパラギン酸と反応してアルギニノコハク酸になり、フマル酸が抜けてアルギニンになる。
④さらに尿素が抜けてオルニチンになって、尿素回路は1回転。(オルニチン回路)
尿素回路は二酸化炭素でスタート
なぜ尿素回路の最初の反応、遊離アンモニアと二酸化炭素からカルバモイルリン酸ができる過程はミトコンドリアマトリックスで行われるか?
TCA回路やピルビン酸からアセチルCoAの形成により、ミトコンドリアマトリックスは細胞内で最も二酸化炭素濃度が高い場所だから
なぜ尿素回路は肝臓で行われるか?
下の図で示したように肝臓には肝動脈と肝門脈の2本の血管が入り、これらは胆汁を運び出す胆管とともに肝臓内で細かく枝分かれしていきます。
肝臓は小葉という機能単位がいくつも集合した構造になっています。
肝動脈枝は大動脈から肝臓に酸素を供給する血管、肝門脈枝は腹腔内の消化管や脾臓から出た静脈血を集めた血管で、これらは末梢で類洞と呼ばれる隙間を流れ、小葉中心静脈に流れ込みます。
類洞周囲には肝細胞が束状に並んで、栄養素の吸収や血糖の調節や、アンモニア等の解毒作用を果たしています。
小葉中心静脈は次第に太く集まって肝静脈となり、肝臓の背側面から下大静脈に流れ込みます。
肝臓から出て大静脈に戻る血液は、類洞を通っていく間に肝細胞の尿素回路によってアンモニアが除去され、肝静脈から心臓へ送り返されます。
肝門脈が無ければ即死です。
心臓を出て毛細血管までが動脈、毛細血管から心臓へ帰るまでが静脈
毛細血管を出て、次の毛細血管までをつなぐ血管が門脈で、その門脈は人体には肝門脈と脳下垂体門脈の2つしかない。
肝硬変の危険性
肝動脈と肝門脈の血液は肝小葉の周辺から小葉中心静脈に向かって集中するので、構造的に肝内の血流は渋滞しやすい。
慢性肝炎で肝細胞の破壊と再生が繰り返され肝硬変になると、小葉構造が変形し、血液はさらに流れにくくなる。。
特に肝門脈血が渋滞すると肝臓のフィルターを経ずに大静脈への抜け道を通ってしまう。
すると、消化管で発生したアンモニアが直接全身に回ることになる。
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ここで人間は肉食を避けるべきとよく言われているのを目にします。
肉食を避けるべきなのは、消化管の中でタンパク質が分解されアミノ酸から発生するアンモニアを減らすためだそうです(-_-;))
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消化管は酸素を受け取った血液中にアンモニアを含んでいて、そのまま静脈に返せません。
アンモニアは消化管の毛細血管から血液中に吸収されるので、その血液をそのまま静脈に返すと高アンモニア血症になって致命的な結果になります!!
そこで消化管の大部分から出る静脈血は一度肝門脈に入って肝臓でアンモニアを除去されます。
だから、肝臓は大事なのです!!!
アンモニアは生体に必要な素材でもある。
動物の体は実は相当な量のアンモニアを必要としている。
必須アミノ酸(ロイシン等)は体内で合成できず、食事として接種が必要。
それ以外の非必須アミノ酸は体内に存在する炭水化物から糖新生の逆反応で合成できる。
糖新生ではアンモニアは有害な廃棄物だが、必須アミノ酸の生合成ではアンモニアは不可欠な素材。
グルタミンとグルタミン酸
αケトグルタル酸には、アミノ基転移反応や酸化的脱アミノ以外に、アミノ酸残基の端にあるカルボキシル基にアミノ基がアミド結合してグルタミンになる反応がある。
個のグルタミン酸とグルタミンの相互変換が生体内のアンモニア調節メカニズムの最も重要な反応(廃棄物としてのアンモニアと、素材としてのアンモニアをどのように調和しているか)
望ましくない場所にアンモニアを遊離すればグルタミン合成酵素で即座に吸収、アンモニアが必要な場所にはグルタミナーゼでこれも即座に必要十分量を供給できる。(それぞれ反応が一方通行)
ヘムの合成
ヘモグロビンの構造
ヘムは赤血球のヘモグロビンに組み込まれて酸素運搬に重要な役割を果たす。
ヘモグロビンを含む赤血球は骨髄で生まれる。
ヘムの合成の第1ステップは、δアミノレブリン酸(ALA)から始まる。これはミトコンドリアマトリックスでTCA回路に組み込まれているスクシニルCoAとグリシンから合成される。
ヘムはミトコンドリアの外で成長する
ミトコンドリアマトリックスでスクシニルCoAとグリシンから合成されたδアミノレブリン酸(ALA)はミトコンドリアから細胞質ゾルに出て、ALA2分子から1個のポルホビリノゲンになってピロル環の原型を作る。それがヒドロキシメチルビランになり、ヘム環になる
4個の窒素原子がこの段階で失われ、失われた窒素原子は4分子のアンモニアとして遊離し、骨髄で発生したアンモニアは肝門脈系には入らず、肝臓のフィルターで除去されないので、グルタミン酸に吸着されてグルタミンになる。
ヘムは再びミトコンドリアに帰る。
ヒドロキシメチルビランは閉鎖してポルフィリン環になる。
Ⅰ型とⅢ型があって、自然に閉鎖すると全部ポルフィリンⅠ型になって酸素運搬特性を持てなくなる。
そこでウロポルフィリノゲンⅢ合成酵素でウロポルフィリノゲンⅢに変換され、
プロトポルフィリノゲンⅢはプロトポルフィリンⅢに変換され、ヘム合成は再びミトコンドリアマトリックスに移り、2価の鉄原子が導入されてヘムが完成。
ヘムの合成の場がミトコンドリアに戻る理由は、導入される鉄が2価であるということから、2価鉄は電子軌道のエネルギー状態が高く、1個の電子を放出し、より安定な3価鉄に変わろうとするので、この不安定な2価鉄をじかに取り扱える場所が、電子伝達系に供する水素原子が大量に存在するミトコンドリアマトリックスだからである。
鉄は3価の状態が最も安定していて、貯蔵または輸送される。
鉄の貯蔵タンパク質 → フェリチン
鉄の輸送タンパク質 → トランスフェリン
→ トランスフェリンは赤芽球の細胞質に取り込まれ、リソソームで3価の鉄が取り出される。
→ しかし3価の鉄のままでは酸素運搬機能を示さず、ヘモグロビンとして使えない。
→ また2価鉄をそのまま生体内でじかに操作するのは危険。
→ ミトコンドリアに移り、3価鉄が2価鉄になる。
赤血球の代謝と機能
赤芽球の脱核とは
赤芽球(赤血球になる前の、分化途中段階の細胞)のヘモグロビン蓄積が進んで成熟すると、脱核を経て赤血球として血管の中を流れている末梢血中へ出ていく。
脱核とは非対称細胞分裂であり、ミトコンドリア、ヘモグロビンタンパク質合成の場だった粗面小胞体等、殆どすべての細胞内小器官と決別する。
解糖系だけが赤血球の命綱
ミトコンドリアを失った赤血球の代謝はすべて解糖系に依存します。
スペクトリン→タンパク質の骨格。アンキリンというタンパク質によって固定されている。
アクチン→その細胞骨格の中に存在。ミオシンというタンパク質とATPを使って相互に滑りあい、細胞の動きを発現。その必要なATPは解糖系からに依存する。
赤血球は能動的に動く!!アクチンの働きで膜を変形させながら毛細血管の中を通過します。
<10-2>
赤血球の解糖系の特殊性
赤血球の解糖系では、1,3ビスホスグリセリン酸から3ホスホグリセリン酸に至る経路で、2,3ビスホスグリセリン酸を経由する反応が並列している。
通常この経路では1分子のATPが産生されるが、寄り道するとATPは産生されない。貴重なエネルギーをさらに減らすことになる。